海水を入れた浅い水槽にカキ殻の平べったい部分を上にして浸し、ミキサーで細かく裁断した糸状体を散布し、カキ殻の中にもぐり込ませます。糸状体とは、胞子が糸状のかたちになったもので、海のなかで自由に成育するフリー糸状体と母藻の一部を採取して人工的に糸状体を育てる母藻私状体の2種類があります。現在の日本ではフリー糸状体が普及しています。
カキ殻を入れた水槽の温度を海水の温度に合わせて調節し、胞子の放出を抑制したり、促進したりします。8月頃になると、採苗に向けて白かったカキ殻糸状体は、真っ黒に生長します。現在では、糸状体培養を個人で行う産地は少なくなり、漁協単位、県単位で種稲センターを設けています。
夏の終わり頃になると、水温の低下とともに果胞子嚢(かほうしのう)が作られ、果胞子を放出します。この殻胞子を網に付ける作業が採苗(タネ付け)です。
果胞子(タネ)を厚くもなく薄くもなく網に付ける作業は、海苔作りの第一の難関ともいえます。最近では、海上採苗よりも人工的に確実に採苗できる陸上採苗が普及しつつあります。この方法は、1年に2~3日だけの作業にもかかわらず、多額な設備投資を必要とするため、大規模漁家や組合単位による協業で行うケースが多いです。
網にタネが付いてから網展開までを育苗といいます。育苗から適採までは支柱式と浮き流し式の2種類の養殖方法で海苔を育てます。育苗期は海苔の生産過程のなかでもっとも大切な時期で、タネ網の育て方次第で製品としての海苔の「旨さ」「品質」が大きく左右されるといっても過言ではありません。育苗期には、タネを付けた海苔網を一定の時間、空気中に出して乾燥させる「干出」と、海苔の葉体の表面に付いている珪藻類などを落とすことで、海苔芽を元気にし生長を促進させる作業です。
育苗が終わると重ね張りした網の数を少しずつ減らしていく作業を「展開」といいます。
採苗期に約25~30枚重ねられたタネ網は、最終的に一枚網になり、海苔は生長し、適採を待ちます。網の一部は陸上に持ち帰り、冷凍庫に入れ、「冷凍網」にします。冷凍状態で2~3ヶ月ぐらい海苔の芽は損傷なく生き続けることが出来るため、再び海水に入れると正常に生長します。
冷凍網の開発と普及のおかげで、現在は100億枚体制につながっており、品質向上にも大きく貢献しています。一部の漁場では、まだ養殖時期を通じて1枚のタネ網で養殖をしていますが、多くは2~3回、冷凍網に張り替えて行っています。
摘み取りは真冬の冷たい海で、夜明け前から行われます。最初に摘んだ海苔は、やわらかい秋芽初摘みとして、珍重されています。一般的に二番摘み、三番摘みと適採回数を重ねるほど海苔は硬くなっていくのですが、三番摘みの時期でもやわらかい海苔が摘めることもあります。品質の良いおいしい海苔を作るには、小さいときから大きさの異なる多くの葉体郡を育てることが大切で、採苗期、育苗期からの管理がとても重要になっています。
通常、秋芽摘は2~3階適採し、網を冷凍網に張り替えて5~7回適採します。適採方法は昔は手やハサミを使ったが、現在は刃のついたピアノ線を回転させる適採機を積んだ適採船が普及しています。
陸揚げされた海苔の原藻は、漁家の加工場へ入り、加工のほとんどは全自動のり乾燥機で行われます。生海苔はよく洗浄してミンチで細かく裁断された後、1枚当たりの重さが3.2~3.4gになるように濃度調査しながら全自動のり乾燥機へ送り込まれます。
全自動のり乾燥機はのり簾を枠に張り付け、この枠をチェーンで搬送し、一台で抄き、脱水・乾燥・剥ぎまで、一連の工程を繰り返します。
乾燥能力は機械の規模によって異なりますが、一般的には1時間あたり4000~8000枚程度と言われています。
海苔はお寿司やおにぎり、料理のトッピングやふりかけ、キャラ弁の必須アイテムとして欠かせない食材として身近に使用されています。丸徳海苔では焼き海苔の生産と販売に加え、様々な地域の特産品を加えた調味液を使用した味付け海苔を開発しています。これまで、国産(広島県吉和産や島根県津和野産等)のわさびを使用したわさび味のり、広島県の産物である牡蠣を使用した広島かき味のり、広島県安芸郡蒲刈町の藻塩を使用した塩のりを商品化し、販売してきました。現在も地域の特産品を使った新商品の開発に取り組んでいます。
[文章は海苔Press増刊号-2009年3月発行-より一部編集・引用しています。]